ブザンソンの事件その2
飲み過ぎ食べ過ぎのクリスマスイブでした。
でも、この事件のことが頭を離れない。
日本では、25日朝になって、いろいろ情報が出てきた。
日本テレビが、地元新聞の記者の口を借りて、犯人像を語り出した。
「男は非常に賢く、病的なところもある。彼女がブザンソンに来る前にSNSを通じて知り合ったようだ」と。
あとTBSが、指揮官の言葉として「時計職人のように緻密だった」と。
以下、ほぼ引用です。
「携帯電話を何台も持ち、彼女が行方不明となった今月4日の数週間前から単独で行動していて、ホテルや民宿などを何度もかえ、彼女とラインで英語で会話する近しい知り合いのような関係だったと明らかにしました。」
「(男の携帯電話の位置情報から)彼は人があまり行かない場所にも行っています。川沿いや森の中など・・・」(事件担当の地元警察幹部 ミエール氏)
「(取材で)印象的だったのは容疑者の精神分析の話で、警察が何度も容疑者のことを“賢い”と表現していたことだ」(地元紙 グラフ記者)
本当にそうで、フランスの報道では、何度も「賢い」という言葉が使われている。それは警察の人が発している言葉。
すでに2日前の情報で、警察は犬やダイバーを使ったりして捜索しているとあった。日本のメディアは「行方がわからない」という表面の姿勢を崩していない。でも、フランスのメディアは2日くらい前からはっきりというようになっている。
ここからはフランス語の話になる。
例えば、NHKローカル局に相当するテレビでは、記事のタイトルが以下になっている。
L'étudiante japonaise disparue a été tuée selon la police.
ここで a été と使っていることに注目したい。
「え、過去形でしょ?」と何の疑問にも思わないだろうか。
一方で、地元新聞でこういう一節がある。
Le duo serait ensuite repassé par la chambre de la Japonaise.
ここでは、serait repasséになっていることに注意。
était ではなく、serait である。
これは条件法過去。普通の過去形ならétait repasséです。
この違いがわかりますか。
前者は普通の過去形だから「事実・断定」であり、後者は条件法過去だから「おそらく」という「推測・推定」になるのです。
それともう一つ。
同じく地元新聞が書いているフレーズ。
Elle y dînait avec son bourreau présumé.
ここでも動詞のdînaitに注目してほしい。
「半過去でしょ」。そのとおりです。なぜ半過去かわかりますか。
「夜ご飯をたべている時間に幅があるから」と答える人はいるでしょう。
もしこれが「夜ご飯をたべている間に、電話がかかってきた」などの文なら、この答えは正解です。実際、ここでも時間幅のニュアンスについては否定しません。
でもこの文は、単独で使われていることに注目する必要があります。
なぜElle y a dîné と、普通の過去形ではないのか。
これは書き手の側に、主語の人物がもう亡き人という意識があるからなのです。
感覚の域なので、文法書には載っていないと思います(決まりというわけじゃないので、載せようがない)。
超上級のレベルなので、知らなくてもいいです。
なぜ記者たちがこのように書くかというと、情報源の警察がそういうからでしょう。
でも、前に指揮官が言っていた「行方不明になったのは4日。残念ながら、もう亡くなっていると思う」くらいの根拠しかなければ、メディアは
L'étudiante japonaise disparue aurait été tuée selon la police.
というふうに、aurait été tuéeという条件法(推測・推定)を使うはずなんです。
実際、他の断定しかねる情報では、上記のように条件法を使っています。
なぜ普通の過去形(事実・断定)を使うのか。
犯人がつかまったわけでもない、被害者がみつかったわけでもない。
私はそれがずっと疑問だった。
何か警察は、断定できる証拠をもっているとしか思えない。
地元新聞によると、日本の記者たちは「日本では、被害者が発見されないかぎり行方不明という。なぜフランスの警察や報道は死亡と言うのか」と言っているという。
言いたいことはとてもよくわかる。でも、これは言語の違いからくる文化の違いではないだろうか。フランス語としては、上述したように、条件法を使っていないことのほうが大事だと思う。日本語は、そういう構造をもっていない。言葉を変えたり付け加えたりしないといけないのだ。
とはいえ日本人に一番ショックなのは、tuéeという言葉を使っていることなのに違いない。ただ、文化の違いはあれど、そう言えるだけの証拠がなければ、警察は決してこうは言わなかったと思うのだけど。
すでに報道されているように、この男は病的だという。「病的」と訳された言葉はpsychopahte、英語でもほとんど同じ語である。犯人のこの資質に言及するのに、報道は警察の言葉として、もう少し詳しいことをいくつか挙げている。でも、tuéeと断定させた証拠に関しては、一切公表していない。
最後に。やっぱり英語で話をしていましたか。。。
彼女は、英語圏に留学したことがあるのかしら。なんだかそんな感じがするのは気のせい?
でも若いのだから、多少の留学経験では、外国の危険を知ることはできなかったでしょう。日本人は、特に女性は、チャレンジをやめる必要はないけれど、もう用心しすぎるほど用心するしか自衛の方法がないのだ。でも用心してもダメなときもある。まったく無防備な人に何も起きないこともある。
情報が錯綜しているが、フランスから電車で出て、その後欧州の外に飛行機で出たという報道があった。これだと、一気に行ける場所が広がる。私は前述したように、英語を話す先進国出身の人ではないかという気がしていて、欧州から見て海の向こうの某国の人じゃないかという気がするのだけど、飛行機で出て行ったのなら可能性はないわけではない。とにかく早くつかまえてほしい。
でも、この事件のことが頭を離れない。
日本では、25日朝になって、いろいろ情報が出てきた。
日本テレビが、地元新聞の記者の口を借りて、犯人像を語り出した。
「男は非常に賢く、病的なところもある。彼女がブザンソンに来る前にSNSを通じて知り合ったようだ」と。
あとTBSが、指揮官の言葉として「時計職人のように緻密だった」と。
以下、ほぼ引用です。
「携帯電話を何台も持ち、彼女が行方不明となった今月4日の数週間前から単独で行動していて、ホテルや民宿などを何度もかえ、彼女とラインで英語で会話する近しい知り合いのような関係だったと明らかにしました。」
「(男の携帯電話の位置情報から)彼は人があまり行かない場所にも行っています。川沿いや森の中など・・・」(事件担当の地元警察幹部 ミエール氏)
「(取材で)印象的だったのは容疑者の精神分析の話で、警察が何度も容疑者のことを“賢い”と表現していたことだ」(地元紙 グラフ記者)
本当にそうで、フランスの報道では、何度も「賢い」という言葉が使われている。それは警察の人が発している言葉。
すでに2日前の情報で、警察は犬やダイバーを使ったりして捜索しているとあった。日本のメディアは「行方がわからない」という表面の姿勢を崩していない。でも、フランスのメディアは2日くらい前からはっきりというようになっている。
ここからはフランス語の話になる。
例えば、NHKローカル局に相当するテレビでは、記事のタイトルが以下になっている。
L'étudiante japonaise disparue a été tuée selon la police.
ここで a été と使っていることに注目したい。
「え、過去形でしょ?」と何の疑問にも思わないだろうか。
一方で、地元新聞でこういう一節がある。
Le duo serait ensuite repassé par la chambre de la Japonaise.
ここでは、serait repasséになっていることに注意。
était ではなく、serait である。
これは条件法過去。普通の過去形ならétait repasséです。
この違いがわかりますか。
前者は普通の過去形だから「事実・断定」であり、後者は条件法過去だから「おそらく」という「推測・推定」になるのです。
それともう一つ。
同じく地元新聞が書いているフレーズ。
Elle y dînait avec son bourreau présumé.
ここでも動詞のdînaitに注目してほしい。
「半過去でしょ」。そのとおりです。なぜ半過去かわかりますか。
「夜ご飯をたべている時間に幅があるから」と答える人はいるでしょう。
もしこれが「夜ご飯をたべている間に、電話がかかってきた」などの文なら、この答えは正解です。実際、ここでも時間幅のニュアンスについては否定しません。
でもこの文は、単独で使われていることに注目する必要があります。
なぜElle y a dîné と、普通の過去形ではないのか。
これは書き手の側に、主語の人物がもう亡き人という意識があるからなのです。
感覚の域なので、文法書には載っていないと思います(決まりというわけじゃないので、載せようがない)。
超上級のレベルなので、知らなくてもいいです。
なぜ記者たちがこのように書くかというと、情報源の警察がそういうからでしょう。
でも、前に指揮官が言っていた「行方不明になったのは4日。残念ながら、もう亡くなっていると思う」くらいの根拠しかなければ、メディアは
L'étudiante japonaise disparue aurait été tuée selon la police.
というふうに、aurait été tuéeという条件法(推測・推定)を使うはずなんです。
実際、他の断定しかねる情報では、上記のように条件法を使っています。
なぜ普通の過去形(事実・断定)を使うのか。
犯人がつかまったわけでもない、被害者がみつかったわけでもない。
私はそれがずっと疑問だった。
何か警察は、断定できる証拠をもっているとしか思えない。
地元新聞によると、日本の記者たちは「日本では、被害者が発見されないかぎり行方不明という。なぜフランスの警察や報道は死亡と言うのか」と言っているという。
言いたいことはとてもよくわかる。でも、これは言語の違いからくる文化の違いではないだろうか。フランス語としては、上述したように、条件法を使っていないことのほうが大事だと思う。日本語は、そういう構造をもっていない。言葉を変えたり付け加えたりしないといけないのだ。
とはいえ日本人に一番ショックなのは、tuéeという言葉を使っていることなのに違いない。ただ、文化の違いはあれど、そう言えるだけの証拠がなければ、警察は決してこうは言わなかったと思うのだけど。
すでに報道されているように、この男は病的だという。「病的」と訳された言葉はpsychopahte、英語でもほとんど同じ語である。犯人のこの資質に言及するのに、報道は警察の言葉として、もう少し詳しいことをいくつか挙げている。でも、tuéeと断定させた証拠に関しては、一切公表していない。
最後に。やっぱり英語で話をしていましたか。。。
彼女は、英語圏に留学したことがあるのかしら。なんだかそんな感じがするのは気のせい?
でも若いのだから、多少の留学経験では、外国の危険を知ることはできなかったでしょう。日本人は、特に女性は、チャレンジをやめる必要はないけれど、もう用心しすぎるほど用心するしか自衛の方法がないのだ。でも用心してもダメなときもある。まったく無防備な人に何も起きないこともある。
情報が錯綜しているが、フランスから電車で出て、その後欧州の外に飛行機で出たという報道があった。これだと、一気に行ける場所が広がる。私は前述したように、英語を話す先進国出身の人ではないかという気がしていて、欧州から見て海の向こうの某国の人じゃないかという気がするのだけど、飛行機で出て行ったのなら可能性はないわけではない。とにかく早くつかまえてほしい。
2016-12-25 11:09
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コメント(1)
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すみません、検索で辿り着いてしまった人間です。コルマールに2年ほど住んでいます。
>日本の記者たちは「日本では、被害者が発見されないかぎり行方不明という。なぜフランスの警察や報道は死亡と言うのか」と言っているという。
この件ですが、言語の違いというより、根拠を示さないことが疑問視されているように思います。
報道に限らず、日本の感覚では断定と根拠はセットです。断定するなら根拠を示す、根拠が出せないなら断定はしない。
「断定しているのに根拠を示さない、根拠を示さない理由も説明しない」というのは、日本人から見ると非常に不誠実で無責任に感じますよね。
「証拠は掴んでいるが現在は公表できません」の一言でもあれば違うのですが、それもない。日本では考えられないことです。
この点はいかがでしょうか?
フランスではよくあることですか?
by ゆか (2016-12-27 21:00)