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ブザンソンの事件その6

ブザンソンの事件について色々書いてきましたが、アクセス数がいきなり増えたこと、つまり検索でこのページにたどりついた人が出てきたことなどから、記事の一部を引っ込めることにしました。前にも書いたように、私は前からこのブログを読んでくれている人に向けて事件に関することを慎重に書いているつもりだったので、拡散するつもりはゼロでした。

警察は公式に「殺人」と認定しました。来週の3日火曜日に記者会見をするといってます。そして報道の様子だと、犯人の居所はもうわかっているけど、別の理由で捕まえられないのではないかという感じがします。チリとフランスには犯人引き渡し条約が締結されていません。

質問があったことについて、書きたいと思います。

遺体もみつかっていない、犯人もつかまっていないのに、殺人とするのはどういうわけか。
日本の報道では、一度も「亡くなった・死んだ」「殺された」と書かれていませんでしたが、フランスではもう23日からそのように報道されていたのです。フランス語がわかる人からは、どうしてと疑問が出ていました。それがフランスでは普通なのか、など。

フランス警察が「殺人」と公式に認定したのは28日か29日のことです。その前、事件の指揮官は、23日くらいに「4日に彼女がいなくなった。不幸なことに、もう亡くなっていると思う」としか記者たちには言っていなかったように見えます。証拠として何かをはっきり明示したわけではない。そして、記者たちが警察に取材していくうちに、色々な情報が出てきて報道されたーーということだと思います。(ただ「これは間違いなく犯罪です criminel 」とは言っていました。これを「事件です」と訳すのはどうかな・・・と思います)。

「死んだ」だけじゃなくて、「殺された」とはっきり断定して報道された。
現地入りした日本人記者を含め、フランス語を理解する日本人にはこのことがとりわけショックだったようです。

フランス人にとっても「遺体がみつかっているわけでも、犯人がつかまったわけでもないのに、なぜ殺されたと報道されるのか」という疑問は起こりました。そういうコメントがたくさんネットに出ています。

ただ、私はこのへんに、文化の違いのニュアンスを感じるのです。
前に書きましたが、フランス語の報道は、推定・推測をあらわす条件法(elle aurait)じゃなくて、事実・断定をあらわす普通の過去形 (elle a) で書かれています。日本語に訳しにくいのですが、もしこれが条件法を使って「彼女は死んだようだ」(推定・条件法)と報道されたのなら、フランス人にとってはそれほどの疑問はわきおこらなかったのではないかと思います。
それなら、「彼女は死んだ」(事実・普通の過去形)だったらどう反応したのか、、、私にはわかりかねます。
でも実際の報道は「彼女は殺されたようだ」(推定・条件法)でもなく「彼女は殺された」(事実・断定・普通の過去形)ですから、さすがにフランス人にとっても疑問がわきおこったのだと思います。

ただ、私が言いたいのは、もっと違うこと。
日本の報道では、誰もが死んだ・殺されたに決まっているとわかっている状況でも、決して「死」という言葉を口にしない。「はっきりした証拠がないなら当然だ」というかもしれません。一見、日本人は、科学的で事実を尊重して言葉を使う人たちのようですが・・・。確かに慎重さは否定しないし、一面では良いことだとは思いますが、私はなにか違うと思うんです。それは理性や客観性というよりも、「ことだま」的な文化ではないかと。フランス語なら、推定・推測を意味する条件法を使えば「死」という言葉を使っても許されるのではと思えるような場面でも、日本語では「死」という言葉そのものを忌み嫌う。

そういうメンタリティは、福島から避難してきた子供たちを「菌だ」といっていじめるのと、根が同じ文化なんじゃないか、と感じるのです。うまく説明できないのですけどね。。。自分がどうしてそう思うのかは、これから考えていきたいです。

ブザンソンに殺到した日本人記者は、フランスの現地新聞の記者に「まだはっきりした証拠がないのに、死んだとか殺人とか、言い過ぎだ、ひどすぎる」と訴えたのでしょうね。日本人に、フランス語の条件法過去形と普通の過去形のニュアンスを云々する人はほとんどいないでしょうから、「死んだ」、とりわけ「殺された」という言葉に驚いたのでしょう。無理もありません。私も驚きました。
そのせいか、現地新聞のトーンや表現は、どんどん柔らかくなっていった印象があります。
でも現地記者はそれを、「日本人による理性的で、科学的で合理的な精神による訴え」と思ったかもしれないな・・・と。私としては「そういう面だけじゃない、真逆の側面もあると思います」と言いたいわけです。

確かに今回の「殺された」という断定報道はいきすぎだったと思います。
でも、警察がクリスマスだというのに、森林や湖を犬やダイバーを使って被害者を捜索しているのにそれでも、断定しないまでも「亡くなったようだ」とすら言えない日本の慣習や報道に、なんだかちょっと疑問を感じ始めました。

あと「なぜ別の大陸とか言って、国籍をはっきり言わないのか」という質問もありました。
捜査上、明言するべきではない状況があったのかもしれません。この点は日本もフランスも同じ。
ただ、ここにもフランスと日本の違いがあると思います。
NHKの全国ニュースに相当するものを比較すると、犯人がつかまっても、アナウンサーが冒頭で「××人(××国籍)の犯人がつかまりました」というようなことは、フランスではほとんどない印象です。日本に帰って「××人の犯人がつかまりました」「犯人は××国籍の男と判明しました」とかいうニュースの冒頭を聞くと、ぎくっとしますもの。

フランスでは明かさないわけではありません。冒頭の読みのあと詳細の報道が続きますが、それを聞いていると犯人の国籍がわかるという感じです。
ただし、テロリストなどの重大犯人は、これには当てはまりません。
また、テレビの全国ニュース・ローカルニュースの別、権威のある新聞・大衆紙の別などでも変わってくると思います。

この事件で、犯人がどの国籍かを知りたいのは当然です。私も知りたかったです。事件に関心をもったフランス人もそうでしょう。ただ、日本の報道を見ていると、やっぱり「ガイジン」という意識が強いのだなあと思います。それは一つ間違えれば差別につながるものだと思うのですけどね。島国で単一民族意識が強い日本、大陸で国際色豊かでコスモポリタンなフランスでは、違うのは仕方ないのかもしれませんが。。。そもそもフランスには二重国籍者なんてたくさんいるけど、日本は法律が禁じているので、いないし。「フランス人」「フランス国籍」といったところで、他の国籍ももっているかもしれないし、本人は「私はフランス国籍はもっているけど、フランス人じゃない!」と思っているかもしれないし。

あと、テレビの報道で「容疑者の男が女子留学生の部屋を訪れていたことが分かりました。」とそれをニュースとして報道されたものがありました。テレビ朝日です。なんだかねえ・・・と思いましたよ。要するに「自分で男を部屋に引き入れてた」と言いたいのでしょう。まだ今みたいに他の状況がはっきりしていない段階で、あのような報道。偏見を助長し、女性差別がからんでいる報道の仕方だなあと、大変不愉快でした。
報道するなと言っているのではありません。実際、私がアクセスできる範囲では、他のテレビ局も同内容を報道はしていました。でも「被害者が男を部屋に入れた、それがニュースだ」として取り扱った局は、私が見られる範囲ではありませんでした。ちゃんと配慮したんじゃないですか。
現地記者なのか、東京の本部の編成でこうなったのか。どのみち東京の本部がOKしなければ、出るわけがなく。東京にいるアナウンサーが東京のスタジオで読んでいるのだし。ああいやだ、いやだ。読んでたのは女性アナだったけど、どう思ったのだろうか。

当初は犯人は、7日に欧州から出て別の大陸にいったと言われていたのに、昨日あたりから「7日か12日」と言われるようになりました。犯人の逃走ルートも、複数の異なった報道があります。
内容によっては日本の報道が混乱している部分があるのは確かですが(フランスの報道ではぶれがない部分)、警察のほうが捜査に必要なフェイクを入れている部分もあるのかもしれません。これからもっと新事実が明らかになるのでしょう。

なんだか最近は、「恋人同士の別れ話のもつれ」みたいなノリになってきますが、フランスの報道によると、当初から警察は「たいへん頭の良い人物だ」と繰り返し言っており、指揮官は犯人が他の犯罪も犯している可能性を否定していません。ネットに詳しい異常な人物であることは、記憶していてもいいかと思います。「恋人同士の別れ話のもつれ」になると、またぞろ世間の中には、「運が悪かったが、女性の側にも責任はある」みたいなことを言い出す奴が必ず出てくるでしょう。もともと日本人は被害者に冷たい国民性があるうえに、女性に大きな重荷を背負わせがちな社会です(それは結局女性の地位が低いからです)。フランスの報道を見ていて、私は「違う。そういう性質の事件じゃないと思う」と言いたいのです。来週の記者発表と続報を待ちたいと思います。



追伸:「半過去と単純過去を混同している」という指摘がありましたが、「半過去」です。間違いようがないです。だって、単純過去なんて一度も勉強したことないんだもの。活用を知っているのはETREだけ。単純過去は見ればわかるけど、書けません(苦笑)。


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