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退化している? 洋菓子の味覚

この前、病院に行った。
あまりにもお腹がすいたので、病院の近くのあるレストランで遅めのお昼を食べることにした。

その店は、下半分のガラスがくもりになっていて、中がよく見えないけど、上半分を見る限りではきれいな内装で感じがよさそうだった。なので入ってみた。

ところが・・・入った瞬間。「うっ」。いや、ちゃんと清潔な感じだったんだけど、なんというか、男くさいというか、女っ気ゼロというか。店の内装がきれいなのは、持ち主がそうしたというよりは、きっとそういう内装の店を買った(借りた)のだと思う。

いまさら逃げられないし、お腹がすいていたので、そのまま食べることに。いるお客は、男二人(友達?)が二組、一人で座っているおじさんが二人。うーん。ちょっとマグレブっぽいお客だし、給士さんもそう見えないこともない感じなので、きっと持ち主はマグレブ系が入っている人なのだろう。

出てきたパンは、あまりおいしくなかった。美味しいレストランは、必ずパンもおいしい。
「あまり期待できないけど、立地からいっても、まあこんなもんで普通かな」と思った。

注文したのは、ランチメニューのブッフブルギニヨン。
出てきたら、お皿も普通の白いものだし、どんと肉、どんとじゃがいもののふかしたもの3つ。色気や飾りなし。男っぽいというか、センスなしというか・・・。

「いただきます」っと。
・・・・・・・・びっくり!!! おいしい!!!
ちゃんとワインで似た味がする。
牛肉はほっこりやわらかくて、とろけるよう。
見かけは悪いけど、ちゃんと真面目に手抜きをしないで作った味だ。

いやあ、これだからパリは好きよ。
意外性にとんでいる。すべて料理人次第。

東京やロンドンでは、平均的には美味しいけど、チェーンの味になっちゃうのよ。

東京では、おしゃれを気取る人の間では、手作りのお菓子をもっていくと、「貧乏臭い」とか「汚い感じがする」とまで言われて、敬遠されるらしい。その感覚はわかる。私がそうだったから。
でも今は「は? 何言っているの?」と思う。
一番美味しいものは、常に量産できない手作りなんだよ。

一流シェフの一流手作りおかしが一番美味しいけど、アマチュアの手作りと、そこそこ良い店の量産品とどちらが美味しいかというと、、、ケースバイケースかしら。
少なくとも私は、素人の手作りのちゃんとバターの味がするお菓子のほうが、ちょっとくらい有名な店のバターの風味すらしないお菓子よりずっと美味しいと思う。たとえ見てくれが悪くてもね。でも、こじゃれた店に慣れた東京の人間は、今はもうバターの味すらわからないのだと思う。

この前クリスマスのとき、NHKラジオのアナウンサーが「私が子どものころ、出身地の田舎では、クリスマスしかケーキを食べられなかった。ケーキ屋がなかったんです。だから楽しみで楽しみで。あのバターケーキの味、もうわかる人は少ないんでしょうね」と言っていた。でもこの年配のアナウンサーは、現代の東京のおしゃれな人より、ずっと味覚はしっかりしているはずだ。

洋菓子が日本で遅れているのは仕方がない。歴史的なものだから。でも一昔前は、もっと「町のケーキ屋さん」があった。そこでは、職人さんが手作りしていた。それと、手に入りにくい分、家で手作りしていた。今はチェーン店が発達し、見かけはどんどん美しくなり、その分日本人の洋菓子への味覚が退化したような気がする。

私はチョコレートが好きで、パリの有名店のものを食べるのが好き。でもチョコレートっていうのは、他のお菓子と異なり、違いが出しにくい。でも店によって違いはやっぱりあって、そんなのを発見するのが楽しみになっていた。

あるとき日本から友達が、東京の、とある有名でお洒落と言われるブランドのチョコをもってきてくれた。あちこちにあるほどのチェーン店ではないけど、日本に15店くらい店をもっているブランド。包装も含めたすべてのデザインがとってもおしゃれ。

食べてみて思った。

「・・・まずい」。

いや、十分美味しいお菓子であることは認めますよ。
でも、チェーン店菓子は、しょせんチェーンの味なのだ。

「何件くらいまでを手作りというか」というのは難しい。
私の意見だと、パン屋だと2件くらい。
お菓子屋だと1,2件くらい。
チョコレート屋はもう少し多くて4,5件くらい。
レストランだと2件、、、1件という人もいるかな。

手作りとチェーンでは、もう味が違うのです。「美味しい」は、「チェーン」というカテゴリーの中での味の判別になるのです。それがフランスに来て、よーーくわかった。

そういう意味では、「素人の手作りお菓子の方が、有名ブランドチェーンより絶対的に美味しい」という意見も可能だと思う。

そういうのがまだまだ生きているフランス。
だからフランスは好きなのよ。

実を言うと、私がフランスに住んでお菓子を買うようになったとき、思い出したのは、子どものころ母親がつくってくれたお菓子の味だった。子どものころの記憶がわああああっとよみがえった。別に有名シェフのお菓子ではない。フランスでは、石を投げれば当たるほど、あちこちにパン屋があって、そこでは、その店の奥で職人がパンを焼いている。お菓子もつくっている。パン屋ほど多くはないけど、お菓子屋もある(こちらのほうが、パン屋のお菓子よりも高い)。全部、職人の手作りなのだ。
不思議なことだと思う。私は東京で会社員をしていたとき、さんざんブランドのお菓子を食べた。それでも、この味を思い出すことはなかったのだ。20年近く食べていない味だったのだ。それは良質のバターの味であり、クリームの味であり、卵黄の味だ。私が多少は味覚がちゃんとしているとしたら、小さい頃に母親が手作りのお菓子をつくって食べさせてくれたおかげだ。

そういう「正しい味」の味覚が衰えている東京は悲しいと思う。自分がそうだったので、そういう風潮がわかるだけに、よけいに悲しい。和菓子なら「町の和菓子屋」がまだあるのにね。減ってるけど。そして日本人だって「デパートで買った高い和菓子より、うちの近くのだんご屋のほうがおいしい」ってわかるのにね。洋菓子だと、途端にブランド崇拝になってしまう。

いまは外国に洋菓子の修行に行く人も多いから、そういう人が自分の味にこだわって、自分の店をどんどんもってほしい。でも、そういう人は「成功」もしたいだろうから、有名ブランドチェーンの「総シェフ」とかになっちゃうのかなあ。自分で店をやるのは大変だし、そういう法律というか土壌が日本では難しいせいもあると思う。

前に、東京の超有名ホテルのフレンチ・レストランのシェフと話したことがある。フランスに研修に来てたのです。「自分も店をもちたいと思ったことがあるけど、日本では難しい。フランスだと、このシェフの変わらぬ味が好きで、何度も来て、子どもも連れてきて、その子どもも大人になって常連になって、ということがある。でも、日本人はすぐに新しいものを好む。維持するのは大変だ」と言っていた。
これだって、和食なら、例えば「あそこのそばの、何十年も変わらぬ味が好きだ」というのがあるのにね・・・。

新しいのを好むのは、人々のエネルギーだから、悪い事じゃないんだけど。
もっと洋菓子も洋食も、成熟してほしいなあ。
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